ヘンデル『メサイア』より序曲 Messiah, HWV56 No.1 

G.F.ヘンデル

 ヘンデルが作曲した「メサイア」は、私がチェンバロに興味を持つきっかけとなった、思い出の曲です。
 その中でも、序曲について、聞きどころを解説します。

※ 曲の分析は人それぞれです。
 本ブログでは、私見100%で分析しておりますので、参考程度にお考え下さい。
  なお、一見難しいバロック音楽が、少しでも楽しく聞いてもらえるよう執筆しています。

メサイアの概要

 「メサイア」は3部からなるオラトリオ(宗教をテーマとした室内音楽)で、オーケストラのみの曲(序曲と間奏曲)、語り、アリア、そして合唱の曲で構成されており、演奏時間は約2時間30分になります。
 第1部はメシア(救世主)到来の予言とメシアの生誕、第2部はメシアの受難と復活、第3部はメシアがもたらした救いを表現しています。
 今回説明する序曲は、オーケストラのみで演奏するもので、第1部の最初の曲です。

「序曲」の聴きどころ

序曲の聴きどころを、曲の構成、重たい雰囲気、フーガの「3」の、3つの観点からお伝えします。

  1.  曲の構成
     曲はフランス風序曲のスタイルで、すなわち、重たい雰囲気の序曲とフーガからなる様式で書かれています。まずは、この雰囲気が違う2つの部分の対比が聴きどころです。
  2.  重たい雰囲気
     曲の最初、Graveで書かれたこの部分は、キリストの受難の過酷さを表していると言われており、付点のリズムから軛を負ったイエスの足取りの重さや、Graveのテンポ感からはユダヤ教が混沌の時代(救いのない時代)からなかなか抜け出せない様を描いているようにも感じます。
     また、音符を見ても、掛留音(前の和音から引き継がれた和声外音)を使うなどして動きが少なく、なかなか次の和音に移らない様からも、曲全体の重たさが演出されています。
     このGraveの部分の最後はフリギア終止が用いられています(動画の37秒、1分16秒あたり)。このフリギア終止は、バロックの、短調でゆったりな曲の終止形に好んで用いられた語法で、ピカルディ終止ほどでは無いにしても、少し光が差すような印象を受けるのが特徴です。ぜひ、意識して聴いてみてください。
  3.  フーガ中の「3」(動画の1分24秒~)
     バロックのいくつかの曲、とりわけ宗教音楽には、数字に意味が込められているとよく言います。たとえば、「3」という数字は「神」、「子」、「精霊」を、4の数字には「人間界」を、そしてその2つを足した「7」には「世界」を、といったように。(詳細は数象徴で検索してみてください。)
     フーガはたいてい4つのパートがあれば、最初のテーマの提示は4つのパートすべてが独立して1回ずつ行うものですが、このフーガは弦に4つのパートがあるにも関わらず、3つのパートしか提示の機会を与えられていません。また、反復1つをとっても、3回繰り返すことに固執している部分が随所に見られます。これは、もしかすると数を意識して作曲したのではないでしょうか。

前述の3つの聴きどころに加え、3ページ目から4ページ目にかけた、一度音楽を収束させたところから一気に拡散させるところや、最後から4小節目に向けた順次進行による上行音型が醸し出す緊張感も、意識して聴けると、ますます曲が味わい深くなります。

楽譜リンク(ISMLP)

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